<20. 楽器の選択、適性>
いろいろな講習会やメールで「新入部員の楽器をどう決めればいいか」という質問を受けることがよくあります。
学年の初めにこのことで悩む先生もいらっしゃるようですけど、私はあまり大きな問題ではないと考えています。
生徒の受け持つ楽器をなかなか決められなくて、一学期が終わる頃までかかるという学校もありましたが、1年間の練習時間は決まっているので、そんなことをしていては練習が始められません。
楽器の数とその楽器を希望する生徒の数の違い(例えば大きな楽器に希望者がいない)等、思い通りにはいかないことが多いようですが、できるだけ生徒の好みを優先させてください。
ある地方では「あの先生は生徒の適性を瞬時に見抜いてその子にピッタリの楽器を選べる」等という話も聞くことがありますが、私にはあまり信じられません。
肉体的な適性(例えば唇が薄いから・・・とか、歯並びが・・・とか)ということもありますが、小学校のレベルではあまり大きな影響はないように思います。
手が小さくてフルートやクラリネットの穴に指が届かないとか、腕が短くてトロンボーンの5ポジションにも届かないというのは困りますが、大きなチューバをスタンドに載せて上手に吹いている小さな生徒もたくさんいます。
大切なのはその楽器が好きかどうか、音楽が好きかどうかです。
それぞれの楽器に対する適性よりも、どの楽器にも共通の能力やセンスをチェックすることの方が大切だと思います。それもあまり難しいことではなく、ピアノ等で弾いた音と同じ音程の声を出したり、メトロノームに合わせて手を叩いたりする(案外出来ない子がいます)程度で十分です。
出来れば生徒に各楽器の映像を見せたり、有名なメロディを聞かせたりしてから生徒自身に判断させましょう。
最初はフルートやトランペット等のよく知られた楽器を希望する生徒が多いのですが、例えば「白鳥の湖」の「情景」を聞くとオーボエを練習したくなったり、それぞれの楽器の協奏曲を聞くとその楽器を吹きたくなったりします。
この頃ではチューバのソロのCDもいろいろ手に入ります。上手なドラム・マーチを聴かせるとスネア・ドラムや他の打楽器を希望する生徒も増えます。
前からいる生徒にそれぞれの楽器を紹介・演奏させて新入部員に聞かせる時間を作ると、新旧の生徒のどちらにもいい経験になり、それをコンサートの一部にすることもできます。
また、一度決めた楽器を絶対に換えてはいけない、というものではありません。トランペットを始めたけれどあまり音が出ないので他の楽器に替わるというようなこともあります。
第一希望、第二希望等を聞いてとりあえず早く練習を始め、もし何か不都合があればその時に考えるという事でいいと思います。
1曲目はトランペットを吹いて、2曲目はチューバというような生徒も何度か見たことがあります。アルトホルンを1年間吹いていたけどメロディが吹きたいからコルネットに替わりたいという生徒もいました。
木管楽器の指も各楽器で共通する部分が多いので持ち替えていろいろ吹くことも出来ます。
また、管楽器から打楽器、打楽器から管楽器に替わることもよくあります。
小学生の場合は頭も体も柔軟で、本人の希望で年度の変わり目等に楽器を替わっても、抵抗なくどれも同じレベルまで吹けることが多いようです。
中学生でも学校のバンドで木管を吹き、地域のバンドで金管を吹いているという生徒もいました。
どれか一つの管楽器で「楽器を吹く時の息の感じ」「楽器に息を入れた時の息に対する抵抗感」等のコツを覚えると、他の管楽器を吹いても応用が利きます。また打楽器でも管楽器でも楽譜を読むのは同じです。
あまり最初に悩まないで、楽器の数の許す限り生徒の好きな楽器を練習させてみましょう。
ただ、いくつかの楽器を持ち替えるためには、楽譜が読めること、それぞれの楽器の運指を覚えるということは最低条件です。最初の何日かで指を覚え、楽譜を読めるように指導するというのはこの点からもとても大切です。
<20. 楽器の選択、適性>