曲の合奏の目的は指導者のイメージに実際のバンドの音を近づけることです。
指導者がその曲に対するはっきりしたイメージを持っていないと合奏の時間を無駄にすることになりますから、事前に頭の中でその曲の感じをつかんでおく、作っておくことが大切です。
指導者はまずそれぞれの楽器から楽譜通りの音が出ているかどうかを冷静に聞いてください。楽譜通りというのは音程とリズムだけではありません。強弱(フォルテやピアノ等)やアーティキュレーション(スラーやスタッカート等)もとても大切です。
事前にパート練習をして音を確かめておけばこの時間が短くてすみます。メンバーの一人一人がまだ十分練習できていないのに合奏するのはあまり効果的とはいえません。
合奏はジグゾーパズルを完成させるのと似ているような気がします。
パズルのそれぞれのピースの形が正確なら、焦らずに組み立てていけばいつかは完成させる事が出来ますが、一つでも形のおかしいピースが混ざっていると時間をかけてもでき上がりません。
音程やリズムを正確に演奏できない、あるいはまだ音も出せない生徒を集めて合奏するのは、ゆがんだピースでジグソーパズルを組み立てるようなものです。
もちろん正確さといっても止むを得ない許容範囲といったものがありますが、まずメンバーそれぞれの完成度をより高める事が合奏の準備として非常に大切です。
一人一人が楽譜通りに音を出せば全体が合うのは当然ですから、もし合わない場合は何が違うのかをチェックします。どこがおかしいのかを生徒に考えさせてもいいでしょう。
全体ではわかりにくい時には、パートごとに聞きます。指導者が注意深く聞いている事がわかれば生徒も同じように注意深く音を聞くようになってきます。
どこがどう違うのかを確かめずに何度も何度も「とりあえず」通すのは時間の無駄です。
合わない部分を見つけ、間違いを訂正するのと同時に演奏を自分のイメージに近づけていきます。各パートの音量、一つ一つの音の形を変えると曲の感じはすっかり変わります。
どんな曲でもメロディが聞こえないというのが一番困ります。どのパートがメロディなのかを確認して、メロディがはっきり聞こえるように他のパートの音量を小さくするだけでぐっと曲らしくなります。
例えば吹奏楽でフルートの中音域にメロディがあるような場合は伴奏をかなり静かにしないといけないでしょう。低音のパートにメロディがあって高音域に伴奏がある場合もバランスに気をつけて下さい。打楽器、特にバス・ドラムの音量にもいつも気をつけましょう。演奏会でバンド全体がバス・ドラムの音にかき消されているのを何度も聞いたことがあります。
メロディと伴奏のバランスをどの程度にするか、メロディがはっきり聞こえて伴奏がほとんど聞こえない程にするのか、伴奏も聞こえていてその中でメロディが少し大きめに聞こえる程度にするのか、二つ以上のメロディが同時に鳴っている時に、どのメロディをどのくらい強調するのか等は指揮者の好み、個性、音楽性の問題で、どれが正しいというものではありません。
ただ、技術的な正確さを保ったまま、柔軟な音楽を作ることは難しいようです。
もちろん技術的に完璧なバンドなら音楽的に思い通りに曲を作る事が出来ますが、実際にはそんなバンドはほとんどないので、どこかで技術的、音楽的に妥協する必要に迫られます。
どこまで正確さや音楽性を要求するか、逆に言うとどこで妥協するか、によって合奏練習の内容が変わってきます。
<14. 曲の合奏>