<9. 聴くことの大切さ>
バンドの指導法や楽器の教則本では、どうしても技術的な説明に偏りがちですが、まず音楽的な感性がないとその技術も生かされません。音楽的な感性が先行して、技術的な問題を解決するというのが本来の練習だと思います。
例えば「きれいな音」と言ってもそれぞれイメージが違うでしょう。バンドのメンバーの多くが「きれいな音」という漠然とした言葉に対する具体的なイメージをよりはっきり持っている方がより早くそれに近づくことができます。
「イメージを持つ」といっても、これまでに聞いたこともない「きれいな音」のイメージを持つことは誰にも簡単には出来ないでしょう。イメージを持つということは、これまでに聞いた中で最上のものを思い浮かべる、思い出すということだと思います。何も聞いたことがない生徒にイメージを持てと言っても無理です。
ここにきちんと調整されたクラリネットがあり、マウスピースとそれにあったリードが付けられていたとしても、吹き方やアンブシュアを教えられただけで生徒は素晴らしい音が出せるでしょうか? 何日か一人で練習していつかクラリネットらしい音になるでしょうか?
まず指導者が自分がいいと思うクラリネットの音を生徒に聞かせて、生徒はそのイメージに近づけるために練習する。何かに近づこうと本人が努力している時に適切なアドヴァイスを与えられるのがいい指導者だと思います。
いい指導者は練習中に話す言葉の中で、いつの間にかそのイメージをはっきりと生徒に伝えています。
例えば、メンバーの中で誰の音が先生のイメージに一番近いか、というようなことでもいいでしょう。
新しくバンドができた学校で初めて楽器を吹く生徒と、以前からバンドがある学校の新入部員とを比べると、後者の方が練習を始めてから短期間で音になるようです。上級生の吹く音をいろいろな機会に耳にしていると、知らない間に楽器の音のイメージが頭の中にできているのでしょう。
ですから、いい音を出して盛んに活動しているバンドは、それ自体が次のメンバーを育てていることになります。
今練習しているバンドのメンバーにもいろいろな音楽を聴かせましょう。
特にこれから始める生徒には、まず練習する楽器のいい演奏を何度か聞かせてから実際に音を出させるようにしたいものです。
同じCDを聞かせても上手なバンドのメンバーほど興味をもって聴きます。自分たちが演奏の細かいところを気にしているから、聞こえてくる音楽の細かいところも気になるのです。同じ演奏を聴いてもそれぞれの音楽的レベルによって聴き取っている内容は違います。
いい音といっても実は音色そのものだけではなく、フレーズの吹き方も大いに関係します。先生が多くのいい演奏を知っていて、今練習している曲の演奏に役に立ちそうなものを聞かせることができれば、言葉で説明する以上にイメージを伝えることができます。
<9. 聴くことの大切さ>